記事

SoftBank World 2023開幕「AGI(汎用人工知能)は10年以内に実現する」(孫正義会長)

第12回目となるソフトバンク最大規模の法人向けイベント「SoftBank World 2023」が開幕した。コロナ禍で昨年はネット配信だけだったが、今年は会場参加とオンライン視聴のハイブリッドでの開催となった(10/3のDay0と10/6のDay4はオンラインのみ)。10月4日の特別講演では、創業者でソフトバンクグループ代表取締役 会長兼社長執行役員の孫正義氏が、「AGI(汎用人工知能)は10年以内に実現する。人類の英知の総和の10倍に達したら、全ての分野でAIが人間を抜いてしまう」と持論を展開した。

ソフトバンクグループ株式会社 代表取締役 会長兼社長執行役員 ソフトバンク株式会社 創業者 取締役 孫 正義氏
画像:オンライン配信より(以下、同様)

講演の冒頭、孫氏は「この講演には60ページのスライドを用意したが、その中で最も重要なスライドは2ページで、そのひとつがこの金魚のスライドだ」と紹介した。金魚にabcを覚えさせるのはほぼ不可能に近いという意味だが、「我々が金魚になってしまう」ことに対する警告である。

もう1枚が、「AGIは10年以内に実現する」というスライドだ。

AGIとはArtificial General Intelligenceの略で、汎用人工知能と呼ばれる概念である。AGIは、非常に高い知能であり汎用性が高く、「人間に近い思考回路や感情を持つAI(人工知能)」として注目されている。このAGIが10年以内に実現するというのが孫氏の持論だ。これからの10年で、AIは人類の英知の総和の10倍に達し、AGIになるという。AIの進化により、教育、人生観、生き様、社会のあらゆるものが変わるその転換点にあり、孫氏は「人類の英知の何倍かとかAGIの具体的な定義、数値についてAIの専門家に聞いても答えられる人はほとんどいない。私が初めて明言した1人目ではないか」と自負する。

講演中、孫氏は会場に向かって「AGI」という言葉を知っている人の挙手を求めた結果、わずか2人からしか手が挙がらなかったことを嘆いた。「日本はやばい、自分はやばいということを知っていただきたい」と訴えた。

一方で、「AGIは見方によって核爆弾よりも危険」とし、AIも自動車と同じように便利だが法律で規制する考えには賛同の意を示した。

生成AIがAGI実現の鍵

孫氏によると、「知能の強さには2つの要因があり、1つがハードウエアでもう1つがソフトウエアである。脳細胞のニューロンの数がハードウエアであり、アルゴリズムがソフトウエアだ。昨今、生成AIの登場でAIがさらに脚光を浴びているのは、このニューラルエンジンの強さ、チップの強さに加えて、(大規模言語モデルである)Transformerをはじめとしたアルゴリズムが進化したからだ」と言う。しかも、「AGIを実現するカギとなるのがChat(チャット)GPTをはじめとする生成AIだ」と力説した。ところが、来場者に、チャットGPTを使っている人の挙手を求めたところ10%もいなかった。「生成AIの活用に取り組まない人や会社は世界から取り残される」と警告した。

注)ChatGPTは、2022年11月に米OpenAIがリリースした対話型AIサービスで、2017年に米グーグルが発表した「Transformer」という大規模言語モデルをベースにしている。OpenAIの筆頭株主はMicrosoftで49%の株式を保有している。

「あるのに手を付けない、手に入るのに手を付けない、そんな人生観でいいのですかと問いたい」とも訴えかけた。「ChatGPTをけなす人やハルシネーション(AIが事実に基づかない情報を生成する現象)があると指摘する人もいるが、電気は爆発する自動車もぶつかったら事故を起こすというようなことを言う人と似ている。文明の進化に対して、斜めからけなす知識人がいる。それは、知識人のふりをしているだけだ。自動車や電気がどれほど有益であったかは、歴史が物語っている」と続ける。

AGIの活用イメージとして、「事故が起きない交通機関を実現できるほか、あらゆるデータを活用したで需要と供給のマッチングや、1日単位ではなく秒単位の不良在庫がないジャストインタイムが実現し、工場ではAGI搭載のインテリジェンスロボットが実現する」と述べた。さらに「カスタマーサービスは個別の問題に対し、より心のひだに寄り添った人間的なサポートができる。投資会社や金融機関は数兆通りのシミュレーションによる最適な投資をAGIに相談をしたり運用をしてもらったりする。これがキラーアプリの1つかもしれない」とし、AGIがあらゆる産業の変革を促すと力説した。

孫氏自身も、毎日のようにChatGPTの最新版であるGPTー4(有料版)を活用しているという。「検索に使うのは間違った使い方で、私はディベートに使っている。お前どう思う?と聞くとそれに対して答えてくれ、何度もやりとりすると、最後には、“それは素晴らしい意見でした”、と返してくれたときはGPTを言い負かしたという世界観になる。最近は、GPTの中にキャラクターをいくつか作ってキャラクター同士でディベートさせて、自分は審判役として見ながら時々チャチャを入れるといった形で議論をがんがん進めている」と明かす。

グループで率先してAGIを実践

孫氏は、「企業におけるChatGPTの利用率は米国では51%であるのに対して日本はわずか7%にすぎないのは問題である」とも指摘した。しかも、「日本ではChatGPTを禁止している、あるいは禁止を検討しているという会社がなんと72%にも上るという事態になっている。使っていないならまだしも、禁止しているというのは甚だ問題だ」と警告する。

こうした状況の中で、ソフトバンクは自らAIを活用しており、「世界で最もAIを活用するグループにしたい」と言う。ソフトバンクグループは、「モバイルが4000万、LINEが9500万、Yahoo!が8500万、PayPayが5800万のユーザーがおり、縦横斜めとあらゆる方向にタッチポイントを持っている。これら全てについてAGIを目指して、データをトレーニング(学習)しインファレンス(推論)する方向に持っていきたい。Eコマース、通信、金融などビジネスのあらゆるところにAGIが活用される」と野心的だ。

グループの取り組みとして、社員証を廃止したことにも触れた。「すでにソフトバンクグループ内では社員証はない。顔認証でそのままスッと会社に入っていける。首から下げるバッジのようなものは他人に貸せるし、落として失くしたりするわけで、何がセキュリティだと。顔は簡単に変えられないし貸せない。よりセキュアになる」とアピールする。

最近は、グループ内で「生成AIコンテスト」を実施している。「わずか数カ月で10万件の活用アイデアが提案され、優勝者には1000万円の賞金が出るようにしている。優れたものは特許として出願しており、出願数は1万件を突破した。自らも890件ほどを出願したが10月中に1000件を目指している」と自ら率先して生成AIの活用を実践している。今後は、「あえて公開しないで半分ぐらいは隠し玉にしておこうと思う」とも。「やる気になったらやりまっせ、というのがソフトバンクの文化だ」と語った。

LLMからMMMへ、AGIからASIへ

グループ内にはコアカンパニーとしてマイクロプロセッサのアーキテクチュアを提供する英Armがあるのも強みであることもアピールした。「Armのチップの出荷がどんどん伸びており、あらゆるデバイスに入り、クラウド側のサーバーだけでなくエッジ側にも入っている。それらがやりとりして教師データと生徒データを学習し、LLM(大規模言語モデル)ができてきた」と説明する。

しかし、「今後はLLMからMMM(マルチモーダルモデル)に変わっていく」と力説する。「人間には目があり耳があり触感がある。チャットに留まらない」と言う。テキスト・画像・音声・動画など複数の種類のデータを一度に処理できるAIになっていくと予想している。さらに、「AGIの次の10年は(人類の英知の総和の)1万倍に達するASIの時代になる。Sはスーパーだ。20年以内にはASIの時代が来る」と持論を展開した。

こうした人類の進化は、「願望が源泉」と指摘する。「AGIの世界が来たら、それをうまく活用できる人と活用できない人の最大の違いは何か。強い願望を持っているかどうかだ。優れた作家になりたい、アーティストになりたいという強い願望を持った人がAGIを最大限に活用して、そして新しい世界、新しい人類の未来を切り開く」と解き明かす。最後に、「活用するか、取り残されるか。AGIを敵ではなく、最強の味方、パートナー、道具と思って最大限に活用すべきだ。テクノロジー国家の日本よ、若者よ、目覚めよ!」と鼓舞した。

(文責:堀 純一郎=HORI PARTNERS代表)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です